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Non night Babylon

青海のマンションに、入り浸る篝と公威。
「赫の夜」になれば、颯爽と戦いの場へと飛び出していく
危険で奇妙な同居人たち。
スルスたちとの、「赫の夜」以外の日常は……。

「或る日、青海宅のリビングにて」

「青海。ちゃんと読んだ?」


「何を?」


「ヴィクトSNS『空神-KARAGAMI-』の、SNS登録者は入会必須、退会不可のコミュニティ『用語についてはここを見ろ』に記述されている説明。
 これ読まないと、スルスについての基礎知識、身につかないわよ?
 あんた、まったく知らないんだから、読んどきなさい」


「おい。ホットケーキの種って、どれだけ混ぜればいいかわかるか?」


「んなもん、読む必要もねーだろ。そのうち覚えっから」


「そんなこと言う奴は、絶対覚えないわね。
 はい、このページのここよ。
 さっさと読みなさい」


「いーよ、めんどくせぇ」


「うるさい、見ろ」


「……この、ダマというものをなくせば良いのだろうか……」


「だから、いいつってんだろ!」


「見なさい!」


「わかった、わかった。後で見るっての」


「絶対見ないでしょ! いいから見なさいっ!」


「おおおぉぉぉぉ……!! なんだか、スベスベになってきた!」


「公威、それ混ぜすぎ。膨れないかもよ」


「なん……だと……!?」


「ああもう! 携帯の画面を、顔に押しつけんなよ!」


「だったら、さっさと見ろ!」


「……ったく。どれどれ」


======= ヴィクト-Vict- =======

 血祭りを意味する「Victimization」が語源のネットスラング。
 誰が言い出したかは不明。
 スルス達の戦いの総称である。


======= スルス-srs- =======

 ヴィクトの主役。
 ヴィクトと同じく「赤い夜空を見る(See the red sky)」や
「赤い夜空を見た(Saw a red sky)」などのネットスラング。
 誰が言い出したかは不明。
 どのスルスに聞いても、こうすればスルスになれる、といった
決まり切った方法は一切ない。
 ある日突然、花葦原の夜空が赤く見えるのが、最初の兆候。
 その後、戦いに参加していくようになる。

 空が赤く見えている間の、スルス達の特徴として

 1.重力から解放され、空に浮かべるようになる。
 2.概ね、好戦的になる。
 3.武器を所持する。(変身する者もいる)
 4.ヴィクトによる怪我の血は、夜空に吸われ(?)、
傷はほぼ、瞬時に自然治癒する。

 という特徴が見られる。

======= 赫の夜(あかのよる) =======

 暗闇の為、黒く見えるはずの夜空が、血のような赤に見える現象。
 この特有の赤い空を見ることが出来るのが、スルスの第一条件。
 スルス以外は見ることが出来ない。
また、映像、画像として記録することも不可能。
 現在のところ、花葦原でのみ見られる現象。
 初発生は定かではない。

 初めてのヴィクト(まだヴィクトと呼ばれず、ただの空中戦だった)について
のネットの記録が三年前の為、三年前が起源とされている。
 赫の夜の発生は、周期がなく、不定期である。

 


「読んだぞー」


「よしっ。最初っから、おとなしくそーしてたらいいのよっ」


「めんどくせえなぁ、もー」


「ちょっとくらい頭使わなきゃ、老けるわよ」


「……その言葉、そのまま、お前に返すわ」


「しっ、失礼ね! あたしだって読書くらいするわよ!」


「ホットケーキが焼けたぞ。さっさと食え」


「ん、いただきまーす」


「……なんだ、こりゃ。
 ホットケーキつーより、どら焼きの皮じゃねぇか」


「焼いてやっただけ、ありがたく思え」


「これはこれで美味しいじゃん。
 公威、おかわりちょーだい」


「うむ、任せろ!
 百枚焼いてやる!」


「一枚でいいから」


「……もっと食ってもいいんだぞ?」


「じゃ、俺、三枚」


「自分で焼け」


「なんだ、その差は……」


「今度はクッキーがいいな。
 チョコチップが入ったの」


「次は、篝が作れ」


「じゃあ、青海にお願いしよっかな」


「なんで、そーなるんだよ……」